???鋭敏、玄妙な音色が次々と繰り出される、夢幻のようなラヴェルである。こうした曲を指揮するときのブーレーズは、完璧といいたいくらいの音色の透明感、見通しのよさがあり、どんな遠くの微細な音も彼方から輝いて見える。まるで氷細工か宝石のように透明なオーケストラだ。そこに逞しい太陽の光の如く降り注ぐのがツィマーマンのピアノである。ひとつひとつの音に確信に満ちた力がこもる、この実在感がツィマーマンの魅力。往々にして不健全とみなされがちなラヴェルの音楽が、ダイヤモンドのように淡く贅沢に輝いている。ト長調の協奏曲では、この曲に顕著なジャズ的要素を求める向きには、もう少しスウィング感が欲しいかもしれないが、この無類の仕上がりの立派さの前には、それもないものねだりかもしれない。 ???2つのピアノ協奏曲の間に挟まれた「優雅で感傷的な円舞曲」では、ブーレーズの魔術に酔いしれる格別の幸福が得られる。「左手」はツィマーマンの熱く巨大なスケールのピアニズムが圧倒的な感銘を与える。それにしても左手1本で弾いているとは思えぬこのすさまじさ! オーケストラの底力も凄い。なお、「ト長調」と「優雅で感傷的な…」は1994年11月クリーヴランド管弦楽団、「左手」は1996年7月ロンドン交響楽団との録音。(林田直樹)
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